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東京高等裁判所 平成11年(行コ)25号 判決

控訴人(原告)

飯村研介

被控訴人(被告)

茨城県知事

橋本昌

右訴訟代理人弁護士

大和田一雄

木島千華夫

右指定代理人

中島敏之

外三名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が平成九年五月二三日付けでした知事交際費経理簿(平成七年度及び平成八年度分)の「件名」欄の非開示決定処分(ただし、原判決の別紙(以下「別紙」という。)一記載の情報に関する部分を除く)を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、控訴人が、被控訴人に対し、茨城県公文書の開示に関する条例に基づき、「知事及び副知事の交際費(平成七年度及び平成八年度分)に関する支出帳票類及び現金出納簿」の開示を請求したところ、被控訴人が、右に対応する公文書である「交際費経理簿(平成七年度及び平成八年度分)」のうち「件名」欄の記載を不開示とし、その余の部分のみを開示したので、その不開示にかかる処分の取り消しを求めた事案である(なお、控訴人は、原審において、本件訴えのうち別紙一にかかる訴えを取り下げ、被控訴人がこれに同意したので、右訴えは取下により終了した。)。

一  前提となる事実(当事者間に争いのない事実は証拠を掲記しない。)

1  控訴人は、肩書き住居地に居住する茨城県の県民である。

被控訴人は、茨城県知事であり、茨城県公文書の開示に関する条例(昭和六一年三月二六日茨城県条例第二号。乙一。以下「本件条例」という。)二条四項に定める実施機関である。

2  本件条例には、以下の規定が存する。

第一条 この条例は、県民に対し、公文書の開示を請求する権利を付与するとともに、公文書の開示の手続等に関し必要な事項を定めることにより、開かれた行政を一層推進し、もって地方自治の本旨に即した県行政の進展に寄与することを目的とする。

第二条 この条例において「開示」とは、実施機関が、この条例の定めるところにより、公文書を閲覧に供し、又は公文書の写しを交付することをいう。

第三条

一項 実施機関は、県民の公文書の開示を請求する権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、及び運用するものとする。

二項 実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、通常他人に知られたくない個人に関する情報がみだりに開示されることがないように配慮するものとする。

第五条 県民は、この条例の定めるところにより、実施機関に対して、公文書の開示を請求することができる。

第六条

一項 実施機関は、前条の規定による請求にかかる公文書の次の各号のいずれかに該当する情報が記載されているときは、前条の請求を拒むことができる。

三号 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

ア 法令(条例、規則等を含む。以下「法令等」という。)の規定により何人でも閲覧することができるとされている情報

イ 公表することを目的として実施機関が作成し、又は取得した情報

ウ 法令等の規定に基づく許可、認可、免許、届出等に際して実施機関が作成し、又は取得した情報であって、開示することが公益上必要であると認められるもの

八号 県の機関又は国等の機関が行う事務事業について、その検査、監査、取締り、徴税等のための計画及び実施要領、争訟及び交渉の方針、入札の予定価格、試験の問題及び採点基準、用地買収の計画及び交渉記録その他県の機関又は国等の機関が行う事務事業の実施に関する情報であって、開示することにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるおそれのあるもの又はこれの事務事業の公正若しくは円滑な実施に著しい支障が生ずるおそれのあるもの

二項 前条の規定による請求にかかる公文書に、前条各号のいずれかに該当する情報とそれ以外の情報とが記録されている場合において、前項各号のいずれかに該当する情報が記録されている部分とそれ以外の情報が記録されている部分とを容易に、かつ、請求の趣旨を損なわない程度に合理的に分離することができるときは、前項の規定にかかわらず、当該それ以外の情報が記録されている部分については、前条の請求を拒むことができない。

3  控訴人は、平成九年五月八日、被控訴人に対し、本件条例五条に基づき、公文書の名称を「知事及び副知事の交際費(平成七年度及び平成八年度分)に関する支出帳票類及び現金出納簿」と特定して、その開示を請求した(以下「本件開示請求」という。文書の名称につき甲九)。

4  被控訴人は、本件開示請求につき、本件条例六条二項に基づき、平成九年五月二三日付けで、「交際費経理簿(平成七年度及び平成八年度分)」(原判決の別表〔以下「別表」という。〕記載の八四一件分。以下「本件公文書」という。)が本件開示請求にかかる公文書に該当するところ、本件公文書の「月日」「項目」「件名」「収入」「支出」及び「残額」の各欄のうち「件名」を除くその余の部分については、同月二九日午前一〇時から茨城県行政情報センターで開示するが、「件名」については、本件条例六条一項三号及び同項八号に該当し開示することができない旨の公文書部分開示決定を行い、そのころ、控訴人に対しその旨の通知をした(甲一、九)。

5  別表記載のとおり、本件公文書は、平成七年度及び平成八年度における知事及び副知事の交際費の具体的支出状況、すなわち、交際費の支出日、会費、香料、購読料、祝儀、見舞、賛助、生花及び餞別等の支出項目、「件名」、収入又は支出の金額及び残額が記載されている。また、本件公文書の「件名」欄には、知事及び副知事の交際相手先に関する事柄(相手先が個人の場合には個人名、役職名又は肩書名等、団体の場合には団体名等。)が記載されている(乙三、四)。

6  被控訴人は、本訴提起後、控訴人に対し、本件公文書のうち別紙一の一四件について、個人の識別ができないことを理由として「件名」欄の内容を開示した。

二  主たる争点

1  本件条例六条一項三号該当性(別表「非該当理由」の「3号」に○印が付された部分)

(一) 被控訴人の主張

(1) 本件条例に定められた公文書開示請求権は、地方自治の本旨に即した茨城県の行政の進展に寄与することを目的として、茨城県の行政運営の状況を茨城県民が十分に知ることができるようにするため、本件条例によって創設されたものである。したがって、右公文書開示請求権は、本件条例の制定趣旨に基づき、解釈されるべきである。

控訴人は、憲法二一条に規定する「知る権利」等を根拠にして本件条例の解釈論を展開しているが、「知る権利」から具体的な公文書開示請求権が発生するものではないから、本件条例に定められた公文書開示請求権は、本件条例によって創設された権利であるといわざるを得ない。

(2) 本件条例六条一項は、実施機関に対し、請求にかかる公文書に本条一項各号に該当する情報が記載されている場合には、当該公文書にかかる開示請求を拒む権限を付与したものであって、右場合にも当外公文書を開示し得るとの裁量権を与えたものではない。

(3) 本件条例六条一項三号は、個人に関する情報であって、個人が識別され又は識別され得るものについて、個人のプライバシーを保護する観点から、非開示とすることを定めたものである。しかし、保護すべき個人のプライバシーの範囲を一律に決定することは極めて困難なので、同号は、同号アないしウの除外事由に当たらない限り、明らかに個人のプライバシーに関する情報と考えられる情報はもとより、特定個人が識別され、又は識別され得る情報を原則として非開示としたものである。

そして、同号にいう「識別され得る」とは、特定個人に関する情報から又は他の情報と結びつけることにより、当該個人が識別され得る可能性がある情報をいう。したがって、個人の氏名、役職又は肩書は、個人が識別され又は識別され得る情報に該当する。

(4) 別表「非該当理由」の「3号」に○印が付された五六三件は、別表「通し番号」の四四三番及び四六〇番(以下、別表「通し番号」欄記載の番号については番号のみを記載する。)の二件を除き、「件名」欄に相手方名の記載があり、これを見ることにより当然に相手方が識別され、また、右四四三番及び四六〇番の二件は、「件名」欄に相手方名の記載はないが、行事名等の記載があり、一般人が通常入手し得る関連情報と照合することにより相手方が識別され得るものである。

したがって、右五六三件は、本件条例六条一項三号に該当するところ、同号アないしウの除外事由に該当しないから、これを開示することはできないものである。

(二) 控訴人の主張

(1) 本件条例に定められた公文書開示請求権は、憲法二一条に規定する「知る権利」に由来し、これを具現化したものである上、本件条例一条は、県民が県の保有する情報を権利として知ることができることが、国民主権及び参政権を実質化し、納税者の税の使い道を知らせ、県民の意思に基く地方自治を実現し、公務執行の公正を確保するために不可欠であるとの見地から、本件条例一条は、「この条例は、県民に対し、公文書の開示を請求する権利を付与するとともに、公文書の開示の手続等に関し必要な事項を定めることにより、開かれた行政を一層推進し、もって地方自治の本旨に即した県行政の進展に寄与することを目的とする。」と規定して公文書開示請求権の存在を明らかにし、また、三条一項は、「実施機関は、県民の公文書の開示を請求する権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、及び運用するものとする。」と規定して、開示請求された公文書は、原則公開とされるべきであることを明らかにし、さらに、一一条において、例外的非開示処分については異議申立てができる旨規定している。以上の事実にかんがみれば、非開示とする事由については、憲法を頂点とする全法体系との整合性を視野に入れ、県民の県政参加の権利・利益との調和という観点から、目的論的に厳格に解釈されるべきである。

また、被控訴人は、前茨城県知事がゼネコン汚職により逮捕された後の出直し知事選挙において当選し、その直後の茨城県議会本会議において、「清潔で開かれた信頼の県政」を実施することを公約したものであり、さらに、交際費として公金を支出する立場から支出の理由について茨城県民に説明する責任があるのであるから、右公約に従い、開示請求された公文書については原則として公開すべきである。

(2) 本件条例は、制定後一〇年以上を経過しており、その間に情報公開に対する社会の捉え方は、秘密主義から公開主義へと、制定時とは比較できないほど変化してきている。例えば、茨城県監査委員事務局は、平成八年五月一七日に異議申立てがされた「食料費に係る支出負担行為決議票、支出票及び請求書(平成六年度)部分開示決定処分」に対し、「相手方の肩書、会合場所等」を遡って開示しており、さらに、茨城県は、外部との懇談会、会議及び打ち合わせ等で支出する食料費関連の公文書について、平成一〇年度から出席者名、会場名等の情報を開示することとした。本件条例の解釈に当たっては、右のような変化に対応し、原則開示の方向で解釈すべきである。

(3) 本件条例六条一項本文は、開示を求められている公文書が同項各号に規定する事由に該当する場合には開示を「拒むことができる」としているのであって、「拒まなければならない」と規定しているわけではない。個人の正当な利益・権利に該当しない場合には、個人情報として同項三号に該当する場合であっても、その公文書を開示することが当然予定されていると解される。

(4) 本件条例六条一項三号の趣旨は、個人の尊厳、基本的人権尊重の立場から、個人のプライバシーの権利の保護を目的とするものである。

プライバシーの権利として法的保護を受ける対象は、①私生活上の事実又は事実らしく受け取られるおそれがある事柄であり、②一般人の感受性を基準にして当該個人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄で、③一般の人々にはまだ知られていない事柄であるという三要件を満たしていることが必要であるから、同号該当性の判断に当たっては右三要件を満たしているか否かが判断されなければならない。

また、国民の知る権利、住民自治の見地から情報公開の権利を認め、公開を原則としている本件条例の趣旨からすれば、プライバシー権の保護という名目で情報の原則公開がないがしろにされてはならず、特定の個人が識別され得る情報についても、プライバシーを侵害しないことが明白な場合やプライバシー保護が知る権利に優越しないことが明白な場合には、これを公開すべきであり、本件条例全体の趣旨からして、プライバシー保護の範囲は限定的に解されるべきである。

右の観点からすると、同号に規定する「特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」とは、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」をいい、同号は、そのような情報について開示義務を免除した規定である。

交際費支出の相手先が公務員である場合、公務に携わるもの同士が税金で儀礼的交際をすることは納税者の立場からして認められないから、そのような公務員は、同号に規定する「特定の個人」に当たらない。

また、仮に、氏名を開示することができないとしても、個人の氏名以外の所属・肩書等は、「特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」に当たらないから、これを開示すべきである。

(5) 香料・生花は、個人情報に該当しない。すなわち、香料・生花を受領する者は、茨城県の行政に対し貢献等があったなど茨城県との公的な関係における評価、位置づけにより香料・生花を贈られることを了解しており、これを受領することは名誉なことであることを考慮すると、一般に右贈呈の事実を知られたくないと望むものではなく、個人の秘密に関する情報ともいえないから、受領者の氏名を開示したからといって、そのプライバシーを侵害するものではない。なお、右に述べた香料・生花贈呈の趣旨からすれば、香料・生花の金額の多寡が「通常他人に知られたくない個人に関する情報」に該当するとはいえない。これは、香料・生花以外の他の項目についても同様である。

香料・生花を贈呈する葬儀・法要は、その対象となった物故者の死亡の事実が公表されるなどして一般に周知になっている場合が少なくないと窺われるばかりでなく、生花はその贈呈が被控訴人によるものであることを公表披露することを予定しているものであり、香料についても贈呈の事実が自ずと明らかになる性質のものであるから、これを非開示にすることはできない。

香料・生花は、公職選挙法一九九条の二に規定する寄付の禁止項目に該当する項目であり、選挙を意識して、本来交際費から支出すべきでない私的交際に支出されることが十分考えられるから、現職知事がゼネコン汚職により逮捕されたという経緯のある茨城県においては、県民の県政への信頼を得るためには、特に情報を開示することが公益上必要である。

(6) 祝儀・見舞・餞別は、開示されるべき支出項目である。

祝儀・見舞・餞別を受領する者は、茨城県の行政に対し貢献等があったなど茨城県との公的な関係における評価、位置づけにより祝儀・見舞・餞別を贈られることを了解しており、これを受領すること自体不名誉なことではなく、その金額も一律に等しい金額で支払われているのであるから、受領者の氏名を開示したからといって、そのプライバシーを侵害するものではない。

祝儀については、知事等が結婚披露宴や祝賀式等へ出席し祝い金を支出していることは一般の人の目にも明らかであり、相手の名前も公開されることが予定されているから、開示されるべきことは当然である。

見舞金及び餞別は、被控訴人自身の私的関係で支出されるものではなく、茨城県と相手方との信頼関係及び友好関係を維持するため支出される公金であるから、納税者が税金の無駄遣いを監視する観点からも公開されるべきである。特に、餞別は、これを贈った相手先がほとんど官公庁の公務員若しくは公益法人の役職者であると思われるところ、このような者に公人たる被控訴人が餞別を贈ることは時代錯誤であって適切な交際費の支出に当たらないものであり、官官接待等の不祥事を防止し健全な地方行政を推進していくという観点から、餞別を支出した相手先は公開されるべきである。

祝儀・見舞・餞別は、公職選挙法一九九条の二に規定する寄付の禁止項目に該当する項目であり、選挙を意識して本来交際費から支出すべきでない私的交際に支出されることが十分考えられるから、現職知事がゼネコン汚職により逮捕されたという経緯のある茨城県においては、県民の県政への信頼を得るためには、特に情報を開示することが公益上必要である。

(7) 賛助・会費は、開示されるべき支出項目である。

賛助は、各種団体等から協力要請があった際に、被控訴人において、当該団体の活動が公益性が高いため茨城県の公金を使用するに値すると判断して支出したものであるのみならず、相手方も税金から支払われることを知った上で協力要請をしてきていることからして、名称を公開されることを了解しているということができるから、賛助した相手先の名称を明らかにすることにより相手先に不利益を与えるものではなく、相手先の名称は、当然開示されるべきである。

会費は、被控訴人が構成員となっている各種団体の会合や交際の相手方との信頼、友好関係等を深める趣旨で出席した各種会合の会費として支出されたものであるところ、被控訴人は、各種会合が公的な性格を持つため職務上重要な公務としてこれに出席し、会費を支出したものであり、このような交際は、相手方も含めて茨城県民が了解しており、また、右各種会合は内密の協議を目的として行われたものではない上、被控訴人の週間日程が一般に公開され、又は会合への参加が報道されるなどして出席した会合が明らかにされているのであるから、相手先の氏名を開示することにより茨城県の事務事業等の公正若しくは円滑な実施に著しい支障が生じるはずはなく、これらの情報は、「公表することを目的として実施機関が作成し、又は取得した情報」に当たるというべきである。

また、会費といっても、その内容は、懇談会の費用、年会費、祝い金等の意味を含むものであり、懇談会については重要な公務と解されるから、懇談会のため支出された費用を儀礼的交際のための支出であるということはできず、年会費についても被控訴人が茨城県知事として公益性の強い団体へ加入しているため支出されたものであって、これらの相手方が公開されたからといって不利益は生じず、祝い金も個人主催の会合に出されており、被控訴人の私的な政治活動のために支出されているものであって(二四二番、二四五番、五三四番〔「鈴木三男茨城県千代田町長の再選に向かっての激励会」等〕等)、その支出の相手方を本号によって保護する必要性はない。

以上のとおり、会費については当然開示されるべきである。

2  本件条例六条一項八号該当性(別紙一の一四件を除く全件)

(一) 被控訴人の主張

(1) 知事の交際費は、都道府県における行政の円滑な運営を図るため、知事が関係者と懇談や慶弔等の対外的な交際事務を行うのに要する経費であり、右のような知事の交際が本件条例六条一項八号に規定する「その他県の機関又は国等の機関が行う事務事業」に該当し、その情報が「その他県の機関又は国等の機関が行う事務事業の実施に関する情報」に該当することは明らかである。

(2) 知事の交際費に関する公文書のうち、交際の相手方が識別され得るものは、相手方の名称等が外部に公表、披露されることがもともと予定されているものなど、相手方の名称等を公表することによって知事の交際事務の実施の目的が失われ、又はその公正若しくは適切な実施を著しく困難にするおそれがあるとは認められないようなものを除き、本件条例六条一項八号により開示することができないものである(最高裁第一小法廷平成六年一月二七日判決・判例タイムズ八四一号八二頁参照)。

そして、当該情報にかかる知事の交際が通常の儀礼的交際としてされたものであり、かつ、その相手方が識別され得る場合には、「相手方の名称等を公表することよって知事の交際事務の実施の目的が失われ、又はその公正若しくは適切な実施を著しく困難にするおそれがあるとは認められない」との特別事情(以下「特別事情」という。)が存在しないことが推認されるものである。

(3) 別表「非該当理由」の「8号」に○印が付された八二七件は、別紙二の四六件を除き、「件名」欄に相手方名の記載があり、これを見ることにより当然に相手方が識別され、また、右四六件は、「件名」欄に相手方名の記載はないが、行事名等の記載があり、一般人が通常入手し得る関連情報と照合することにより相手方が識別され得るものである。

(4) 祝儀(二五件)、見舞(三八件)及び餞別(一〇七件)は、以下のとおり、本件条例六条一項八号に該当する。

① 祝儀は、被控訴人が、交際の相手方との信頼、友好等の関係の維持を願う趣旨で各種式典等に出席した際の祝い金として、見舞は、交際の相手方が病気入院等の際に対する見舞の趣旨で、餞別は、交際の相手方の転任、退職等に際し、それまでの協力等に謝意を表し、さらに、今後の信頼、友好等の関係の維持を願う趣旨でそれぞれ支出したものであり、いずれも儀礼的交際としてされたものである。

② 祝儀、見舞及び餞別は、その儀礼としての性質上、贈った者及び贈られた者の双方とも、贈った事実の有無、その額等を公表することは考えられない性質のものである。

③ 被控訴人は、茨城県と相手方との関わりなどを考慮し、祝儀、見舞及び餞別を贈るか否か等を個別的に決定しているものであり、その相手方や金額を公開した場合、関係者に不満や不快の念を抱く者が出てくるなどして交際事務の実施目的が失われ、今後における右の決定に支障が生じて交際事務の適切な実施を著しく困難にするおそれがある。

(5) 香料(二四二件)、生花(花輪、花環を含む。以下同じ。九九件)は、以下のとおり、本件条例六条一項八号に該当する。

① 香料及び生花は、被控訴人が、交際の相手方である本人やその家族の葬儀の際に弔意の趣旨で支出したものであり、いずれも儀礼的交際の典型的なものである。

② 香料は、その儀礼としての性質上、贈った者及び贈られた者の双方とも、贈った事実の有無、その額等を公表することは考えられない性質のものである。

生花は、その金額が四種類に分かれているところ、贈呈された生花が出席者等の目に触れるのは当然であるが、その贈呈が広く公表、披露されることが予定されているものではなく、交際の対象となった各種式典の主催者団体その他の関係者の間にどの式典等に被控訴人名の生花があったか否かが公然となるわけではないし、これに要した金額が公にされることもあり得ない。当該葬儀に出席した者は、ある程度贈呈された生花の金額を推測できるとしても、他の葬儀に出席しなければ他の葬儀において被控訴人が生花を贈呈したか否か、その金額を推測することはできない。ところが、一覧性のある本件公文書の「件名」欄を開示した場合、生花の贈呈の有無、その金額の多寡が容易に比較確認できることから、他の者に対する生花の贈呈の有無、他の者に贈呈された生花と自ら又はその関係者に贈呈された生花の金額とを比較して、被控訴人の対応に不満や不快の念を抱く者が出ることは容易に予測できる。

③ 被控訴人は、茨城県と相手方との関わりなどを考慮し、香料及び生花を贈るか否か、贈るとしてどの程度のものを贈るかを個別的に決定しているものであり、その相手方や金額を公開した場合、関係者に不満や不快の念を抱く者が出てくるおそれがあり、被控訴人としてもそのような事態を懸念して生花の贈呈を差し控え又はその支出を画一的にすることを余儀なくされるなどし、その結果、交際事務の実施目的が失われ、今後における右の決定に支障が生じて交際事務の適切な実施を著しく困難にするおそれがある。

(6) 賛助(二四件)は、以下のとおり、本件条例六条一項八号に該当する。

① 賛助は、被控訴人が、各種団体等から協力要請があった際に、当該団体等の活動に賛同する趣旨で金品を支出したものであり、儀礼的交際としてされたものである。

② 賛助は、交際事務の公然的外形を伴わず公開性のないものであり、その儀礼としての性質上、被控訴人及び相手方双方とも、支出した事実の有無、その額等を公表することは考えられない性質のものである。

③ 被控訴人は、茨城県と相手方との関わりなどを考慮し、賛助すべきか否か等を個別的に決定しているものであり、その相手方や金額を公開した場合、関係者に不満や不快の念を抱く者が出てくるなどして交際事務の実施目的が失われ、今後における右の決定に支障が生じて交際事務の適切な実施を著しく困難にするおそれがある。

(7) 講読(九九件)は、以下のとおり、本件条例六条一項八号に該当する。

① 講読は、被控訴人が、各種団体等から協力要請があった際に、当該団体等が発行する機関誌や情報誌の提供と引き換えに金員を支出したものであり、儀礼的交際としてされたものである。

② 講読は、情報誌の提供と引き換えに支出されるという性格上、交際事務の公然的外形を伴わず、公開性のないものであり、その儀礼としての性質上、被控訴人及び相手方双方とも、支出した事実の有無、その額等を公表することは考えられない性質のものである。

③ 被控訴人は、茨城県と相手方との関わりなどを考慮し、講読すべきか否か等を個別的に決定しているものであり、その相手方や金額を公開した場合、関係者に不満や不快の念を抱く者が出てくるなどして交際事務の実施目的が失われ、今後における右の決定に支障が生じて交際事務の適切な実施を著しく困難にするおそれがある。

(8) 会費(一九三件)は、以下のとおり、本件条例六条一項八号に該当する。

① 会費は、被控訴人が構成員となっている各種団体の会合や交際の相手方との信頼、友好等を深める趣旨で出席した際に各種会合の会費等として支出したものであって、儀礼的交際としてされたものである。

② 会費は、各種会合への出席という儀礼的な性格上、公開性はない。

③ 被控訴人は、茨城県と相手方との関わりなどを考慮し、各種会合への出席、会費の負担等を個別的に決定しているものであり、その相手方や金額を公開した場合、関係者に不満や不快の念を抱く者が出てくるなどして交際事務の実施目的が失われ、今後における右の決定に支障が生じて交際事務の適切な実施を著しく困難にするおそれがある。

④ なお、五三四番の会費は、控訴人が主張する「鈴木三男茨城県千代田町長の再選に向かっての激励会」のために支出されたものではない。

(二) 控訴人の主張

(1) 本件条例六条一項八号の趣旨は、検査等の事務の公正かつ円滑な実施の観点から、情報が開示されることにより、事務の目的を失わせることや、行政の公正かつ円滑な実施が阻害されること及び第三者との信頼協力関係が損なわれることを防止することにある。

ところで、行政の保有情報が、行政を執行する側の主観的都合で秘密扱いされてきたことから様々な弊害が起こってきたことは公知の事実であり、同号該当性の判断を、専ら行政機関の利便性を基準に、その主観的判断に基づいて決するとすれば、その範囲が不当に拡大する危険があり、情報公開制度の実質的意味が失われ、地方自治の健全な発達が望めなくなるから、同号該当性の判断は、右のような主観的判断に基づいて行われるべきではない。

(2) 本件条例六条一項八号については、特に非開示となる情報が必要最小限になるよう厳格に解釈されるべきである。

右解釈に当たっては、非公開によって保護されるべき行政運営上の利益が実質的に保護に値する正当なものであるか否か、公開による茨城県の行政運営上の利益侵害の程度が単に行政機関の主観においてそのようなおそれがあるにすぎないのか、又はそのようなおそれが具体的に存在するといえるのかを客観的に検討すべきである。

(3) 被控訴人は、本件公文書が本件条例六条一項八号に該当するというのであれば、非公開によって保護されるべき行政運営上の利益が実質的に保護に値する正当なものであり、公開により茨城県の行政運営上の利益侵害のおそれが具体的に存在することを具体的に立証すべきである。しかるに、被控訴人は、抽象的に行政運営上の支障が生じるおそれがあることを強調するのみで、非開示にした理由を具体的に主張立証しない。

したがって、本件公文書は、同号に該当せず、開示されるべきである。

(4) 香料・生花・祝儀・見舞・餞別・賛助・会費が本件公文書が本件条例六条一項八号に該当しないことは、前記1(二)と同様である。

なお、会費については、公的団体についての会費も含まれており、これらについては、相手先が開示されることにより何らの不利益も負わない。

また、賛助については、支出された相手先のほとんどは団体であるから、被控訴人が会合等へ出席しない場合であっても、賛助を受けた相手方は、茨城県の賛助を受けたことを団体の意思決定機関で報告し、最終的には総会の収支決算報告書の中で賛助を受けたことを明らかにするから、賛助について公開性がないとはいえないし、公開されることにより茨城県と相手先との信頼関係が失われるとか事務事業の公正・適正かつ円滑な執行に著しい支障を来すとかいうこともあり得ない。右団体の中には公益法人も含まれていると思料されるが、公益法人に対する賛助は公共活動に対する支援の側面があり、その名称が公開されたからといって、「開示することにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるおそれ」又は「事務事業の公正若しくは円滑な実施に著しい支障が生ずるおそれ」があるとはいえない。

(5) 講読は、本件条例六条一項八号に該当しない。

講読は、各種団体等から協力要請があった際に、被控訴人において、茨城県行政の円滑な運営を図り、又は茨城県の利益を図るなどのため被控訴人が広範囲かつ多数の関係者との間で多岐に渡る交際を行っていく上で必要な参考資料の一つとするため、当該団体等が発行する機関誌や情報誌等の提供を受け、これと引き換えに支出したものである。したがって、講読は、社会通念上の儀礼になじまない支出項目である。

講読の右のような性格にかんがみれば、当該団体等が発行する機関誌や情報誌等、ひいては当該団体等の名称は、広く茨城県民にも公開されるべきものである。しかも、講読についての「件名」を開示されることにより、情報誌等の発行団体の正当な利益を損なうと認められるものではなく、また、茨城県行政の責任者に必要かつ貴重な情報を与えている情報誌や機関誌等であれば、その発行団体の名称を明らかにしても不名誉なことではない。

また、情報誌や機関誌等は、特定の人に販売されるものではなく、広く一般の人に読まれることを意図して作成されるものであるから、当然、その発行団体の名称は公開されるべきである。なお、発行団体の中には公益的性格を持つ団体も含まれており、このような団体について名称を開示することは本件条例の制定趣旨からして当然である。

茨城県は、平成九年六月一二日付新聞で、購読料支出の不鮮明さ、不自然さを指摘されて以後、購読料の支出をしていない。右経過にかんがみれば、購読料として不当な支出がされていたといわれてもやむを得ない面があり、購読料について、特別事情の不存在は推認されない。

第三  当裁判所の判断

一  争点1(本件条例六条一項三号該当性(別表「非該当理由」の「3号」に○印が付された部分)について

1(一) いわゆる知る権利は、憲法二一条の派生原理として導かれ、表現の自由と表裏一体のものとして尊重されるべきものであり、抽象的には公権力・行政機関に対して情報の開示を求める権利を含むものである。しかし、知る権利から、直接、公権力・行政機関に対して情報の開示を求める具体的な請求権が発生するものではなく、右請求権は、これを明定する立法がなければ発生しないものである。したがって、住民に公的な情報に対する開示請求権を付与するか否か、いかなる限度で付与するか、付与する要件をどのようにするかは、いずれも当該地方公共団体における立法政策の問題であり、これらは、当該地方公共団体の定める情報公開条例によってその内容を定められるものである。

本件条例は、以上のような意味で知る権利を具現化するため制定されたものであり、当該情報を開示するか否かの要件は、本件条例の文言に即し、その制定趣旨に基づき解釈されるものである。

(二)  控訴人は、本件条例に定める公文書開示請求権が、憲法二一条に規定する知る権利に由来し、これを具現化したものであり、本件条例一条、三条一項、一一条等の規定の趣旨などから、開示請求された公文書は原則公開とされるべきであり、非開示事由については目的論的に厳格に解釈されるべきである旨主張する。しかし、右のとおり、当該情報を開示するか否かの要件は、本件条例の文言に即し、その制定趣旨に基づき解釈されるものであり、これらを離れて非開示事由を目的論的に厳格に解釈すべきであるということはできない。

また、控訴人は、被控訴人が「清潔で開かれた信頼の行政」を公約として掲げていることなどから、開示請求された公文書は原則公開とされるべきである旨主張するが、右のような公約は、被控訴人が知事として県政に対する一般的指針を示したにすぎないものであり、このことから、本件条例の規定を離れ、開示請求された公文書は原則公開とされるべきであるとする解釈を採ることは許されない。

さらに、控訴人は、情報公開に対する社会の捉え方の変化、茨城県の対応の変化に対応して、開示請求された公文書は原則公開とされるべきである旨主張する。確かに、本件条例の解釈に当たって、情報公開に対する社会の捉え方の変化等を考慮することは必要であるが、情報公開の要請に対極するものとしてプライバシー保護の要請もあるのであり、本件条例の恣意的な解釈を防止するためには、右変化等を考慮した上、本件条例の文言に即して公文書開示の要件を解釈すべきであり、本件条例の文言から離れて本件条例を解釈すべきではない。

2 本件条例六条一項本文は、「実施機関は、前条の規定による請求にかかる公文書に次の各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは、前条の請求を拒むことができる。」と規定している。右規定は、「請求を拒むことができる。」との文言からすれば、実施機関に対し、同条一項各号に該当する場合に公文書の開示を拒むか拒まないかの裁量権を与えたものと解することができる。したがって、実施機関において、開示請求された公文書が同項各号の非開示事由に該当するため、当該公文書を非公開とした場合であっても、裁量権の逸脱濫用が問題となる余地があると考えられる。しかし、同条一項の規定は、同項各号に該当する場合には開示請求された公文書を公開しなくとも良いというのが前提である上、同項各号に規定する情報は、「法令又は条例の規定により明らかに開示することができないとされている情報」「……主務大臣から開示してはならない旨の明示の指示がある情報」等であって、同項各号に該当する情報は、その多くが実施機関の裁量によって開示することが困難な性質の情報であることを考慮すると、非開示とされたことについて明らかな平等原則違反等がない限り裁量権の逸脱濫用等の問題は生じないというべきである。

3(一) 本件条例六条一項三号は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され又は識別され得るものについて、個人のプライバシーを保護する観点から、非開示とすることを定めたものである。しかし、保護すべき個人のプライバシーの範囲を一律に決定することは極めて困難なので、同号は、同号アないしウの除外事由に当たらない限り、特定個人が識別され、又は識別され得る個人情報であっても原則として非開示とし、その一方で、同号アないしウの除外規定をおいて、例外として明らかに個人のプライバシーを侵害しないと考えられる情報及び開示する公益上の必要があると認められる情報を開示できることとしたものである。

同号に規定する「個人に関する情報」とは、例示すれば、思想、信条、宗教等の個人の内心に関する情報、健康状態、病歴、心身の障害等個人の心身の状況に関する情報、学生・生徒の学力成績、各種試験の成績等個人の能力に関する情報、職業、職歴、地位、学歴、資格等の個人の社会的地位・活動に関する情報、親族関係、生活記録、居住関係等個人の家庭生活に関する情報、収入、資産等個人の財産状況に関する情報等がある。

同号に規定する「識別され得るもの」とは、特定個人に関する情報から又は他の情報と結びつけることにより、当該個人が識別され得る可能性がある情報をいう。

(二)  控訴人は、プライバシーの権利として法的保護を受ける対象は、①私生活上の事実又は事実らしく受け取られるおそれがある事柄であり、②一般人の感受性を基準にして当該個人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄で、③一般の人々にはまだ知られていない事柄であるという三要件を満たしていることが必要であるから、同号該当性の判断に当たっては右三要件を満たしているか否かが判断されなければならない旨主張するが、右三要件によっても、保護すべき個人のプライバシーの範囲を一律に決定することは極めて困難であり、そのような困難さを考慮して、本件条例は、プライバシーの権利として保護を受け得るか否かという観点からではなく、当該個人が識別され得るか否かという観点から開示の可否を規定することとし、本件条例六条一項三号アないしウの除外事由に当たらない限り、明らかに個人のプライバシーに関する情報と考えられることはもとより、特定個人が識別され、又は識別され得る情報を原則として非開示としたものであるから、控訴人の右主張は採用できない。

また、控訴人は、特定の個人が識別され得る情報についても、プライバシーを侵害しないことが明白な場合やプライバシーの保護が知る権利に優越しないことが明白な場合には、これを公開すべきであり、同号に規定する「特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」とは、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」をいう旨主張するが、同号の立法理由は右(一)に述べたとおりであり、特定の個人が識別され得る個人に関する情報であっても、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」でない限り、開示しなければならないものと解することはできない。

さらに、控訴人は、交際費支出の相手先が公務員である場合、そのような公務員は、同号に規定する「特定の個人」に当たらない旨主張するが、公務員を「特定の個人」から除外するか否かは立法政策の問題であり、同号が何らの留保なく「特定の個人」と規定している以上、「特定の個人」から公務員が除外されると解することはできない。

4(一)  本件公文書のうち、本件条例六条一項三号に規定する個人に関わるものは、別表「非該当理由」の「3号」に○印が付された五六三件であり、そのうち四四三番及び四六〇番の二件を除くその余のものは、「件名」欄に相手方名の記載があり、これを見ることにより当然に相手方が識別され、また、右四四三番及び四六〇番の二件は、「件名」欄に相手方名の記載はないが、行事名等の記載があり、一般人が通常入手し得る関連情報と照合することにより相手方が識別され得るものである(乙三、四)。

(二)  控訴人は、個人の氏名以外の所属・肩書等は、「特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」に当たらない旨主張する。しかし、右五六三件の「件名」欄には、個人の氏名以外に所属肩書名・行事名・続柄名・葬儀等の日付が記載されているところ、本件公文書については、「月日」「項目」「収入」「支出」及び「残額」の各欄が既に開示されているから、これに加えて「件名」欄に記載されている個人の氏名以外の所属肩書・行事名・続柄名・葬儀等の日付が開示されれば、一般人が通常入手し得る関連情報と照合することにより相手方が識別され得ることになると認められる(乙三、四、弁論の全趣旨)。したがって、控訴人の右主張は採用できない。

5  以上のとおり、右五六三件の「件名」欄に記載された事項は、いずれも「特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」に該当するから、これを前提として、右五六三件の情報が「個人に関する情報」に該当するか否か、及び「個人に関する情報」に該当するとした場合であっても、本件条例六条一項三号アないしウに該当して開示することができる情報に当たるか否かについて判断する。なお、右五六三件の情報は、香料、生花、見舞、祝儀、餞別、会費、賛助に関するものであるから、これらについて個別に判断する。

(一) 香料(二四二件)について

(1)  香料は、被控訴人が、交際の相手方である本人やその家族の葬儀の際に弔意の趣旨で支出したものであり、その価額は概ね三〇〇〇円から三万円までの四段階に分かれている(甲一、乙二ないし四)。香料の贈呈を受けたか否かは、交際の相手方にとっては個人の家庭生活ないし財産状況に関する情報に該当するところ、葬儀等が公開されているにしても、香料支出の有無及びその額は公表されないのが一般であり、交際の相手方としても、被控訴人から香料を受けた事実及びその額が開示されることを望むとは限らないのであって、香料について「件名」欄に記載された個人の氏名が開示されれば、香料支出の有無及びその額が一般に知られることになるから、これが「個人に関する情報」に該当することは明らかである。

また、本件全証拠によるも、香料が、本件条例六条一項三号アないしウの除外事由に該当するとは認められないので、香料について相手先を開示することはできないと認められる。

(2) 控訴人は、香料を受領する者は、茨城県の行政に対し貢献等があったなど茨城県との公的な関係における評価、位置づけにより香料を贈られることを了解しており、これを受領することは名誉なことであることを考慮すると、一般に右贈呈の事実を知られたくないと望むものではなく、また、香料の金額の多寡が「通常他人に知られたくない個人に関する情報」に該当するとはいえないから、受領者の氏名を開示したからといって、そのプライバシーを侵害するものではない旨主張するが、右主張は、控訴人独自の見解に基づくものであり、採用できない。

また、控訴人は、香料を贈呈する葬儀・法要は、その対象となった物故者の死亡の事実が公表されるなどして一般に周知になっている場合が少なくないと窺われるばかりでなく、贈呈の事実が自ずと明らかになる性質のものであるから、これを非開示にすることはできない旨主張するが、当該葬儀・法要が一般に周知であったとしても、被控訴人が香料を贈ったこと及びその額が当該葬儀・法要の関係者のみならず一般に自ずと明らかになるとは認められないから、右主張も採用できない。

控訴人は、香料が、公職選挙法一九九条の二に規定する寄付の禁止項目に該当する項目であり、選挙を意識して本来交際費から支出すべきでない私的交際に支出されることが十分考えられるから、現職知事がゼネコン汚職により逮捕されたという経緯のある茨城県においては、県民の県政への信頼を得るためには、特に情報を開示することが公益上必要である旨主張するが、香料の額は、一人当たりに直すと、最高が三万円(三八番)であり、二万円が三件(五七番、三五六番、六六一番)あるほかはいずれも一万円以下であって(甲一、乙二)、香料として儀礼的な範囲にとどまることを考慮すると、控訴人が主張するような公益上の必要性を勘案しても、香料について、相手先の氏名を開示するほどの強い公益上の必要性があるとも、本件条例六条一項三号アないしウに該当するとも認められない。

(二) 生花(九九件)について

(1) 生花は、被控訴人が、知事として交際の相手方である本人やその家族の葬儀の際に弔意の趣旨で贈呈したものであり、その価額は概ね一万円から三万円までの六段階に分かれている(甲一、乙二ないし四)。生花の贈呈を受けたか否かは、交際の相手方にとっては個人の家庭生活ないし財産状況に関する情報に該当するところ、葬儀等が公開されているにしても、生花贈呈の有無は葬儀関係者及び葬儀に出席した者ら以外には分からないのが通常であり、また、その額が公表されることもないところ、交際の相手方としても、被控訴人から生花の贈呈を受けた事実及びその額が開示されることを望むとは限らないのであって、生花について「件名」欄に記載された個人の氏名が開示されれば、生花贈呈の有無及びその額が一般に知られることになるから、これが「個人に関する情報」に該当することは明らかである。

そして、本件全証拠によるも、生花が、本件条例六条一項三号アないしウの除外事由に該当するとは認められないので、生花について相手先を開示することはできないと認められる。

(2) 控訴人は、生花を受領する者は、茨城県の行政に対し貢献等があったなど茨城県との公的な関係における評価、位置づけにより生花を贈られることを了解しており、これを受領することは名誉なことであることを考慮すると、一般に右贈呈の事実を知られたくないと望むものではなく、また、生花の金額の多寡が「通常他人に知られたくない個人に関する情報」に該当するとはいえないから、受領者の氏名を開示したからといって、そのプライバシーを侵害するものではない旨主張するが、右主張は、控訴人独自の見解に基づくものであり、採用できない。

また、控訴人は、生花を贈呈する葬儀・法要は、その対象となった物故者の死亡の事実が公表されるなどして一般に周知になっている場合が少なくないと窺われるばかりでなく、その贈呈が被控訴人によるものであることを公表披露することを予定しているものであるから、これを非開示にすることはできない旨主張するが、仮に、当該葬儀・法要が一般に周知であり、被控訴人において、生花贈呈の事実を公表披露する意思があったとしても、生花の贈呈を受けた相手先において、被控訴人から生花を贈られたこと及びその額を当該葬儀・法要の関係者以外の者にまで公表披露する意思があるとまでは認められないし、そのような意思がないことを不当であるということもできないから、右主張も採用できない。

控訴人は、生花が、公職選挙法一九九条の二に規定する寄付の禁止項目に該当する項目であり、選挙を意識して本来交際費から支出すべきでない私的交際に支出されることが十分考えられるから、現職知事がゼネコン汚職により逮捕されたという経緯のある茨城県においては、県民の県政への信頼を得るためには、特に情報を開示することが公益上必要である旨主張するが、香料の額は、一人当たりに直すと、最高が三万円(四七八番、五四四番、七八四番)であるほかは、いずれも二万円以下(概ね二万円、一万七五〇〇円、一万五〇〇〇円、一万三〇〇〇円、一万円)であって(甲一、乙二)、生花として儀礼的な範囲にとどまることを考慮すると、控訴人が主張するような公益上の必要性を勘案しても、生花について、相手先の氏名を開示するほどの強い公益上の必要性があるとも、本件条例六条一項三号アないしウに該当するとも認められない。

(三) 祝儀(民間団体に係る九番を除くその余の二四件)・見舞(三八件)・餞別(一〇七件)について

(1) 祝儀は、被控訴人が、知事として交際の相手方との信頼、友好等の関係の維持を願う趣旨で各種式典等に出席した際の祝い金として、見舞は、交際の相手方の病気入院等の際に対する見舞の趣旨で、餞別は、交際の相手方の転任、退職等に際し、それまでの協力等に謝意を表し、さらに、今後の信頼、友好等の関係の維持を願う趣旨でそれぞれ支出したものであり、その額については複数のランクがある(甲一、乙二ないし四)。祝儀・見舞・餞別を受けたことは、交際の相手方の社会的地位・活動ないし個人の財産状況に関する情報に該当する上、その贈呈の有無及び額が公表されず、また、交際の相手方としても、被控訴人から祝儀、見舞及び餞別を受けた事実及びその額が一般に開示されることを望むとは限らないところ、これらについて「件名」欄に記載された個人の氏名が開示されれば、祝儀、見舞及び餞別を受けた事実の有無及びその額が一般に知られることになるから、これらが「個人に関する情報」に該当することは明らかである。

そして、本件全証拠によるも、祝儀、見舞及び餞別が、本件条例六条一項三号アないしウの除外事由に該当するとは認められないので、これらについて相手先を開示することはできないと認められる。

(2) 控訴人は、祝儀・見舞・餞別を受領する者は、茨城県の行政に対し貢献等があったなど茨城県との公的な関係における評価、位置づけにより祝儀・見舞・餞別を贈られることを了解しており、これを受領すること自体不名誉なことではなく、その金額も一律に等しい金額で支払われているのであるから、受領者の氏名を開示したからといって、そのプライバシーを侵害するものではない旨主張するが、祝儀、見舞・餞別の金額はいずれも一律ではない上(甲一、乙二)、これらを受領した者が一様に贈呈の有無及びその金額を開示されることを甘受しているとは認め難いことを考慮すると、受領者の氏名を開示したからといって、そのプライバシーを侵害するものではないとの見解は、控訴人独自の見解といわざるを得ず、採用することができない。

控訴人は、知事等が結婚披露宴や祝賀式等へ出席し祝い金を支出していることは一般の人の目にも明らかであり、相手の名前も公開されることが予定されているから、祝儀が開示されるべきことは当然である旨主張するが、結婚披露宴や祝賀式等へ出席したものであっても、被控訴人がどの程度の祝儀を贈呈したのかまで知ることができない上、結婚披露宴や祝賀式等の出席者以外の者にとっては祝儀贈呈の有無についても知り得ないのであるから、祝儀贈呈の事実が、本件条例六条一項三号に規定する「個人に関する情報」に該当しないということはできないし、これについて、同号アないしウの除外事由が存在するということもできないのであって、祝儀についての情報を開示することは許されないものである。したがって、控訴人の右主張も採用できない。

さらに、控訴人は、納税者が税金の無駄遣いを監視し、官官接待等の不祥事を防止し健全な地方行政を推進していくという観点から、見舞金・餞別を支出した相手先は公開されるべきである旨主張するところ、右主張を本件条例六条一項三号ウに規定する「開示することが公益上必要であると認められるもの」に該当するとの主張であると善解しても、見舞金・餞別の額は、最高が三万円(五八二番)で、二万円が五件であり、その余は殆どが一万円以下であって(甲一、乙二)、見舞金・餞別として儀礼的な範囲にとどまることを考慮すると、控訴人が主張するような公益上の必要性を勘案しても、見舞金・餞別について、相手先の氏名を開示するほどの強い公益上の必要性があるとも、同号ウに該当するとも認められない。控訴人は、祝儀・見舞・餞別が、公職選挙法一九九条の二に規定する寄付の禁止項目に該当する項目であり、選挙を意識して本来交際費から支出すべきでない私的交際に支出されることが十分考えられるから、現職知事がゼネコン汚職により逮捕されたという経緯のある茨城県においては、県民の県政への信頼を得るためには、特に情報を開示することが公益上必要である旨主張するが、右と同様の理由(なお、祝儀の額は、最高が五万円〔二二番〕、四万四一〇〇円が一件〔六五五番〕、その余が三万円と一万円である。甲一、乙二)から、控訴人の右主張も採用できない。

(四) 賛助(一件〔二一四番〕)、会費(五二件)について

(1) 賛助は、被控訴人が、各種団体等から協力要請があった際に、当該団体等の活動に賛同する趣旨で金品を支出したものであるところ、二一四番の「件名」欄には、民間団体(国の行政機関、普通地方公共団体、特別地方公共団体、地方住宅供給公社、地方道路公社、土地開発公社、資本金、基金その他これらに準じるものの二分の一以上を県が出資している民法三四条の法人、株式会社及び有限会社〔以下、これらを「公的団体」と総称する。〕以外の団体)の名称と並んで個人名の記載がある(乙三)。また、会費は、被控訴人が構成員となっている各種団体の会合や交際の相手方との信頼、友好等を深める趣旨で出席した際に各種会合の会費等として支出したものであり、その額については複数のランクがある(甲一、乙二ないし四)。賛助及び会費は、交際の相手方の社会的地位・活動ないし財産状況に関する情報に該当する上、その贈呈の有無及び額が公表されることはなく、また、交際の相手方としても、被控訴人から賛助及び会費の支出を受けた事実及びその額が一般に開示されることを望むとは限らないところ、これらについて「件名」欄に記載された個人の氏名が開示されれば、賛助及び会費の支出を受けた事実の有無及びその額が一般に知られることになるから、これらが「個人に関する情報」に該当することは明らかである。

そして、本件全証拠によるも、賛助及び会費が、本件条例六条一項三号アないしウの除外事由に該当するとは認められないので、これらについて相手先を開示することはできないと認められる。

(2) 控訴人は、賛助については相手方も名称を公開されることを了解しているということができるから、賛助した相手先の名称を明らかにすることにより相手先に不利益を与えるものではなく、相手先の名称は、当然開示されるべきである旨主張するが、相手方が名称を公開されることを了解していることを認めるに足りる的確な証拠は存在せず、控訴人の右主張は採用できない。

控訴人は、会費の支出に関する情報は「公表することを目的として実施機関が作成し、又は取得した情報」に当たる旨主張するが、会費を支出した会合への出席は、被控訴人の週間日程が公開されていることや報道等がされることによりある程度推認できることがあるとしても、右会合において被控訴人が会費を支出した事実までが公開されるものではなく、公開を予定されているものでもないから、これが「公表することを目的として実施機関が作成し、又は取得した情報」に当たるとは認められない。

控訴人は、会費といっても、その内容は、懇談会の費用、年会費、祝い金等の意味を含むものであり、懇談会については重要な公務と解されるから、懇談会のため支出された費用を儀礼的交際のための支出であるということはできず、年会費についても被控訴人が茨城県知事として公益性の強い団体へ加入しているため支出されたものであって、これらの相手方が公開されたからといって不利益は生じない旨主張するが、会費が、懇談会の費用、年会費、祝い金等の意味を含むとしても、個人である交際の相手方にとっては、これらの支出を受けたか否か、その額がいくらであるかを公開されることは、これにより第三者からいらざる中傷等を受ける可能性があると認められるから、これを公開されない利益を有することが明らかであり、控訴人の右主張は採用できない。また、控訴人は、祝い金については、被控訴人の私的な政治活動のために支出されているものであって(二四二番、二四五番、五三四番〔「鈴木三男茨城県千代田町長の再選に向かっての激励会」〕等)、その支出の相手方を本号によって保護する必要性はない旨主張するが、被控訴人の私的な政治活動のため祝い金が支出されたことを認めるに足りる証拠は存在せず(五三四番の会費が支出された日は平成八年七月五日であり〔甲一、乙二〕、「鈴木三男茨城県千代田町長の再選に向かっての激励会」が開かれた日は同月四日であるから〔甲四〇〕、五三四番の会費が右激励会のため支出されたものでないことは明らかであり、二四二番、二四五番についてもこれが被控訴人の私的な政治活動のため支出されたことを認めるに足りる的確な証拠は存在しない。)、控訴人の右主張は採用できない。

(五) 以上のとおり、香料、生花、見舞、祝儀、餞別、会費、賛助に関する前記五六三件の情報は、「個人に関する情報」に該当するところ、本件条例六条一項三号アないしウに該当して開示することができる情報に当たらないから、これを非開示とすることができるというべきである。そして、右各情報の性質にかんがみれば、実施機関が右五六三件の情報を非開示としたことについて、権限を逸脱濫用した違法があるとは認められない。

二  争点2(本件条例六条一項八号該当性〔別紙一の一四件を除く全件〕)について

1  右一で認定したとおり、別表「非該当理由」の「3号」に○印が付された五六三件については、本件条例六条一項三号に規定する個人に関わる情報として開示することができないから、本件条例六条一項八号該当性を論ずるまでもなく、控訴人の開示請求は理由がない。そこで、右五六三件以外について、本号該当性を判断することとする。右五六三件以外の情報は、祝儀、会費、賛助、講読にかかるものである。

2(一)  本件条例六条一項八号は、茨城県の機関又は国等の機関が行う事務事業の目的達成及びその公正かつ円滑な実施を確保する観点から、茨城県の機関又は国等の機関が行う事務事業の実施に関する情報であって、開示することにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるおそれのあるもの又はこれの事務事業の公正若しくは円滑な実施に著しい支障が生ずるおそれのあるものを非開示とすることを規定したものである(乙一)。

(二)  「茨城県の機関又は国等の機関が行う事務事業の実施に関する情報」とは、同号に例示された「検査、監査、取り締まり……に関する情報」のほか、茨城県の機関又は国等の機関が行う事務事業の実施に関する一切の情報をいう(乙一)。

(三)  「開示することにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるおそれのあるもの」とは、事務事業の性質又は事務事業の実施目的からみて、開示することにより、当該事務事業を実施する意味を喪失し、又は減殺することになるおそれのある情報をいう。また、「事務事業の公正若しくは円滑な実施に著しい支障が生ずるおそれのあるもの」には、情報を開示することにより、関係当事者との間の信頼関係が損なわれ、今後、事務事業の実施のために必要な関係者の理解、協力を得ることができなくなるおそれのある情報が含まれる(乙一)。

3  茨城県知事及び同副知事は、茨城県の代表者として、相手方との信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的とし、茨城県行政の適正かつ円滑な運営を期するため、広範囲かつ多数の関係者との間で、式典や行事その他の各種会合等への出席、慶弔事案の処理、懇談、挨拶その他多岐にわたる交際を行う必要があり、これらの交際事務を行うため知事交際費を支出するものである。

知事交際費の支出基準については、一律の定めはなく、知事又は副知事が、個別的、具体的な事例ごとに先例を参考にして、相手方の地位、相手方と茨城県との関わりの濃淡、貢献度の大小などを考慮して、その都度支出するか否か等を決定している(乙四)。

4(一)  右3のとおり、知事交際費は、茨城県における行政の適正かつ円滑な運営を期するため、広範囲かつ多数の関係者との間で、多岐にわたる交際事務を行うため支出されるものであるところ、右のような知事の交際は、本件条例六条一項八号に規定する「その他県の機関又は国等の機関が行う事務事業」に該当し、その情報は、「その他県の機関又は国等の機関が行う事務事業の実施に関する情報」に該当すると認められる。

(二) そして、知事の交際費に関する公文書のうち、交際の相手方が識別され得るものは、相手方の名称等が外部に公表、披露されることがもともと予定されているものなど、相手方の名称等を公表することによって知事の交際事務の実施の目的が失われ、又はその公正若しくは適切な実施を著しく困難にするおそれがあるとは認められないようなものを除き、本件条例六条一項八号により開示することができないものである(最高裁第一小法廷平成六年一月二七日判決・判例タイムズ八四一号八二頁参照)。

(三) また、当該情報にかかる知事の交際が通常の儀礼的交際としてされたものであり、かつ、その相手方が識別され得る場合には、「相手方の名称等を公表することによって知事の交際事務の実施の目的が失われ、又はその公正若しくは適切な実施を著しく困難にするおそれがあるとは認められない」との特別事情が存在しないことが推認されるというべきである。

控訴人は、被控訴人において、非公開によって保護されるべき行政運営上の利益が実質的に保護に値する正当なものであり、公開により茨城県の行政運営上の利益侵害のおそれが具体的に存在することを具体的に立証すべきである旨主張するが、そのように解したとしても、右のように推定が働く場合には、開示を求める側において特別事情の不存在を立証すべきであり、控訴人の主張がこれと反するとすれば、独自の見解であって採用することができない。

(四)  控訴人は、本件条例六条一項八号については、特に非開示となる情報が必要最小限になるよう厳格に解釈されるべきである旨、右解釈に当たっては、非公開によって保護されるべき行政運営上の利益が実質的に保護に値する正当なものであるか否か、公開による茨城県の行政運営上の利益侵害の程度が単に行政機関の主観においてそのようなおそれがあるにすぎないのか、又はそのようなおそれが具体的に存在するといえるのかを客観的に検討すべきである旨主張する。

本件条例六条一項八号の解釈に当たって、非公開によって保護されるべき行政運営上の利益が実質的に保護に値する正当なものであるか否かなど、控訴人指摘の事項を検討することは必要であるが、同号の解釈は、同号の文言、制定趣旨等に即してされるべきであり、同号の文言、制定趣旨から離れる形で、非開示となる情報が特に必要最小限になるよう厳格に解釈することは許されないというべきである。

5  争点二において問題となる祝儀、会費、賛助及び講読は、いずれも「件名」欄に相手方名の記載があり、これを見ることにより当然に相手方が識別されるか、又は、「件名」欄に相手方名の記載はないが、行事名等の記載があり、一般人が通常入手し得る関連情報と照合することにより相手方が識別され得るものである(乙三、四)。

したがって、当該情報にかかる知事の交際が通常の儀礼的交際としてされたものであることが認められれば、「相手方の名称等を公表することによって知事の交際事務の実施の目的が失われ、又はその公正若しくは適切な実施を著しく困難にするおそれがあるとは認められない」との特別事情が存在しないことが推認され、控訴人において、特別事情の不存在を立証しなければ、これらの情報を開示することはできないこととなる。

6  以上を前提として、祝儀、会費、賛助及び講読が本件条例六条一項八号に該当するか否かを判断する。

(一) 祝儀(九番)について

祝儀は、被控訴人が、交際の相手方との信頼、友好等の関係の維持を願う趣旨で各種式典に出席した際の祝い金として支出したものであり、儀礼的交際としてされたことが認められる(乙三)。

そして、本件全証拠によるも、特別事情が存在しないことを認めることはできない。祝儀は、その儀礼としての性質上、贈った者及び贈られた者の双方とも、贈った事実の有無、その額等を公表することは考えられない性質のものであるところ、被控訴人は、茨城県と相手方との関わりなどを考慮し、祝儀を贈るか否か等を個別的に決定しているものであり、その相手方や金額を公開した場合、関係者に不満や不快の念を抱く者が出てくるなどして交際事務の実施目的が失われ、今後における右の決定に支障が生じて交際事務の適切な実施を著しく困難にするおそれがあるというべきである。祝儀についての控訴人の主張が採用できないことは、前記一5(三)(2)で認定したとおりである。

(二) 会費(個人情報に関する五二件を除く一四一件)について

会費は、被控訴人が構成員となっている各種団体の会合や交際の相手方との信頼、友好等を深める趣旨で出席した際に各種会合の会費等として支出したものであって、儀礼的交際としてされたことが認められる(乙三)。

そして、本件全証拠によるも、特別事情が存在しないことを認めることはできない。会費は、各種会合への出席という儀礼的な性格上、公開性はないところ、被控訴人は、茨城県と相手方との関わりなどを考慮し、各種会合への出席、会費の負担等を個別的に決定しているものであり、その相手方や金額を公開した場合、関係者に不満や不快の念を抱く者が出てくるなどして交際事務の実施目的が失われ、今後における右の決定に支障が生じて交際事務の適切な実施を著しく困難にするおそれがある。

控訴人は、公的団体についての会費は相手先が開示されることにより何らの不利益も伴わないから相手先を開示すべきである旨主張する。しかし、会費が支出された相手先は、大半が公益性の薄い民間団体である上(乙二ないし四)、相手先が公的団体であったとしても、会費支出の有無及びその額などが公開されることにより、他と比較するなどして不満や不快の念を抱く者が出てくることは容易に推認できるから、控訴人の主張は採用できない。そして、その他の会費についての控訴人の主張が採用できないことは、前記一5(四)(2)で認定したとおりである。

(三) 賛助(二一四番を含む二四件)について

賛助は、被控訴人が、各種団体等から協力要請があった際に、当該団体等の活動に賛同する趣旨で金品を支出したものであり、儀礼的交際としてされたことが認められる(乙三)。

そして、本件全証拠によるも、特別事情が存在しないことを認めることはできない。賛助は、交際事務の公然的外形を伴わず公開性のないものであり、その儀礼としての性質上、被控訴人及び相手方双方とも、支出した事実の有無、その額等を公表することは考えられない性質のものであるところ、被控訴人は、茨城県と相手方との関わりなどを考慮し、賛助すべきか否か等を個別的に決定しているものであり、その相手方や金額を公開した場合、関係者に不満や不快の念を抱く者が出てくるなどして交際事務の実施目的が失われ、今後における右の決定に支障が生じて交際事務の適切な実施を著しく困難にするおそれがある。

控訴人は、賛助については、公開性がないとはいえず、また、公開されることにより茨城県と相手先との信頼関係が失われるとか事務事業の公正・適正かつ円滑な執行に著しい支障を来すとかいうこともあり得ない旨、賛助の相手先には公益法人が含まれているところ、公益法人に対する賛助は公共活動に対する支援の側面があり、その名称が公表されたからといって、「開示することにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるおそれ」又は「事務事業の公正若しくは円滑な実施に著しい支障が生ずるおそれ」があるとはいえない旨主張する。しかし、賛助を受けたことが相手先関係者に公開されることがあることはともかくとして、これが相手先関係者以外に公開されるとまでは認められず、また、公益法人であっても、その名称が公開され、賛助の有無及びその額が明らかになることにより、他と比較するなどして不満や不快の念を抱く者が出てくることは容易に推認できるから、控訴人の主張は採用できない。そして、その他の賛助についての控訴人の主張が採用できないことは、前記一5(四)(2)で認定したとおりである。

(四) 講読(九九件)について

(1) 講読は、被控訴人が、各種団体等から協力要請があった際に、当該団体等が発行する機関誌や情報誌の提供と引き換えに金員を支出したものであり、儀礼的交際としてされたものと認められる(乙三)。

講読は、情報誌の提供と引き換えに支出されるという性格上、交際事務の公然的外形を伴わず、公開性のないものであり、また、その儀礼としての性質上、被控訴人及び相手方双方とも、支出した事実の有無、その額等を公表することは考えられない性質のものであるところ、被控訴人は、茨城県と相手方との関わりなどを考慮し、講読すべきか否か等を個別的に決定しているものであり、その相手方や金額を公開した場合、関係者に不満や不快の念を抱く者が出てくるなどして交際事務の実施目的が失われ、今後における右の決定に支障が生じて交際事務の適切な実施を著しく困難にするおそれがあると認められる。

(2) 控訴人は、購読料の支出は社会通念上の儀礼になじまない支出である旨主張するが、独自の見解であって採用できない。

控訴人は、知事たる被控訴人が交際を行っていく上で必要な参考資料の一つとするため、購読料を支出しているのであるから、当該団体等が発行する機関誌や情報誌等、ひいては当該団体等の名称は、広く茨城県民に公開されるべきものであり、講読についての「件名」を開示されることにより、情報誌等の発行団体の正当な利益を損なうと認められるものではなく、その発行団体の名称を明らかにしても不名誉なことではない旨主張するが、購読料の支出先及びその額が明らかになれば、これを他と比較するなどして不満や不快の念を抱く者が出てくることは容易に推認できるから、控訴人の主張は採用できない。

また、控訴人は、情報誌や機関誌等は、広く一般の人に読まれることを意図して作成されるものであるから、当然、その発行団体の名称は公開されるべきである旨、公益的性格を持つ団体については名称を開示することは本件条例の制定趣旨からして当然である旨主張するが、情報誌や機関誌等が広く一般の人に読まれることを意図して作成されているからといって、被控訴人においていかなる相手先から講読しているのか、その購読料としていくらを支出しているのかを公開すべきとする理由にはなり難いし、購読料支出の相手先はいずれも公益性の薄い民間団体である上(乙三)、公益的性格を持つ団体であっても、相手先が公開されることにより購読料の支出先及びその額が明らかになれば、これを他と比較するなどして不満や不快の念を抱く者が出てくることは容易に推認できるから、控訴人の主張は採用できない。

控訴人は、茨城県は、平成九年六月一二日付新聞で、購読料支出の不鮮明さ、不自然さを指摘されて以後、購読料の支出を止めており、右経過にかんがみれば、購読料として不当な支出がされていたといわれてもやむを得ない面があり、購読料について、特別事情の不存在は推認されない旨主張するが、控訴人主張事実を認めるに足りる的確な証拠は存在しない(甲三三号証によってこれを認めることができない。)。

(五) 以上の次第で、祝儀(九番)、会費(個人情報に関する五二件を除く一四一件)、賛助(二一四番を含む二四件)及び講読(九九件)は、本件条例六条一項八号に該当するから、これを非開示とすることができるというべきである。そして、右各情報の性質にかんがみれば、実施機関が右各情報を非開示としたことについて、権限を逸脱濫用した違法があるとは認められない。

三  よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官塩崎勤 裁判官小林正 裁判官萩原秀紀)

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